「がん3大標準治療」
- がんと診断されたとき、一般的に患者さまが受ける治療法には、「外科療法(手術)」「化学療法(抗がん剤)」「放射線療法」の3つがあります。
- これら3つの治療法は、「3大標準治療」といわれています。何千、何万人というがん患者さまが参加した過去の大規模試験の結果に基づく、治療効果の確率が高いものが標準治療として選定されています。ただし確率の面から選定された治療のため、残念ながら治療の効果を十分に享受できない患者さまも一定数いらっしゃいます。
- また、ほとんどの進行がんにおいては、標準治療では治癒出来ないという実情もあります。更には、ゲノム解析の進歩により、同一のがんでも患者さま一人ひとりによって全く異なる性質があることが判明してきております。
「第4のがん治療」
- このような中でがん治療は、患者さま一人ひとりに応じた個別の治療戦略を取ることが重要となり、その治療法も医療技術の進歩により、進化してきました。こうして誕生した治療法が、ゲノム・分子レベルでの解析結果を活用する新たな治療法です。
- 患者さま自身の免疫細胞を利用した「がん免疫療法」や、がんのゲノム解析を行いがん細胞に特異的に発現している分子をターゲットとした薬剤を投与する「分子標的療法」がこれらの新たな治療法に当たり、「がん3大標準治療」に対して、「第4のがん治療」といわれています。
- 標準治療は外部からの力(手術・抗がん剤・放射線 等)によりがんの治療を行うため、時に痛みや食欲の低下、脱毛などの辛い副作用を伴います。
- これに対し、「がん免疫療法」はがん患者さまが本来持っている免疫力を活かした治療であるため、患者さまが副作用で苦しむことは、ほとんど報告されていません。また「分子標的療法」は、正常な細胞に影響を及ぼさず、がん細胞だけを攻撃できる薬(分子標的薬)を活用するため、従来の抗がん剤に比べると、より患者さんの負担が少なくなっています。
- この「第4のがん治療」と従来の「3大標準治療」とを適切に組み合わせることで、相乗効果を生み出し、より効果的な治療となることが期待出来ます。
免疫の仕組み
免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」があります。

「自然免疫」
- 「自然免疫」とは、ウイルスや細菌などの異物が体内に入ってくると、それを排除しようとする免疫反応のことです。
- 免疫反応では、血液中の白血球が機能し、その白血球中には、好中球・リンパ球(NK細胞、T細胞、B細胞)・好酸球・単球などが含まれています。これらはウイルスや細菌等、体内に侵入した異物を攻撃し、排除する機能を有しています。また、各々攻撃・排除の対象となる異物が違うなど、その役割を分担しています。
- 「自然免疫」はあらゆる動物が有しており、自身の体をウィルスや細菌から守る大切な仕組みですが、がんのように「自然免疫」による排除が難しいケースも数多くあります。
NK細胞が異物(標的細胞)を攻撃する様子

「獲得免疫」
- 「獲得免疫」とは、「自然免疫」による排除を逃れ、体内で増殖を始めたウイルスや細菌、がん細胞が現れた時に機能する免疫反応です。
- ウィルスや細菌あるいはがん細胞の目印(抗原)を認識し、その抗原に応じた排除方法を選択する高度な免疫反応で、T細胞やB細胞といったリンパ球が機能します。
- 抗原に出会うと、これらのT細胞やB細胞といったリンパ球が大量に増殖され、強い殺傷能力を発揮します。
- また、抗原に応じた排除方法を学んで記憶することで、次に同じ抗原に出会った際に即時に排除することが出来ます。
- この免疫反応は後天的に獲得されるため、「自然免疫」と区別して「獲得免疫」と呼ばれます。
- この「獲得免疫」の仕組みを利用し、がんの予防や治療に活用する目的で誕生したのが、がんワクチンです。
がんワクチン
がんワクチンの仕組み
- 健康な人の体の中でも、がん細胞は1日約5,000個生じており、その多くは免疫の働きにより排除されています。しかし、がん細胞は不均一であるため、中には免疫の働きが誘導される抗原を有しない免疫原性(注)の低いがん細胞も存在します。このようながん細胞は、免疫の働きを担うT細胞やB細胞といったリンパ球から異物として認識されないため、免疫による攻撃・排除を逃れ、長期に渡って生存し、増殖をし続けます。更にがん細胞は、その増殖の過程で免疫を抑制する分子を積極的に取り込み、免疫による攻撃・排除から逃れる環境を構築していきます。こうして、がん細胞は免疫からの攻撃・排除から逃避することで無限に増殖し、がんを発症するに至るのです。(がん免疫編集説)
- そこで、がん細胞によって構築された免疫を抑制する環境を解除させると共に、免疫原性の低いがん細胞に対しても機能する免疫の働きを誘導することで、がん細胞を攻撃し、排除しようとして生み出されたのが、がんワクチンです。
- がんワクチンは、免疫細胞が抗原とみなして攻撃する、がんだけに発現する目印(がん抗原ペプチド)を特定します。この目印(がん抗原ペプチド)そのもの、あるいは目印の情報を与えれた樹状細胞をワクチンとして体内に入れることで、免疫反応を強く誘導し、がん細胞への攻撃・排除を行います。
- )免疫原性
- 抗原などの外来物質が体内での細胞性免疫応答を誘発する能力のこと
がんワクチン療法と呼ばれるものには、主にペプチドワクチン療法と樹状細胞ワクチン療法があります。
ペプチドワクチン療法
ペプチドとはタンパク質の断片のことです。がんに発現するペプチドを利用することで、患者さま自身の持っている免疫力を高め、がんの増大を抑える治療がペプチドワクチン療法です。
投与されたペプチドががん抗原として認識されることで、リンパ球などの免疫細胞が活性化し、同じペプチドを発現しているがん細胞への攻撃を行い、排除します。攻撃の目印となるペプチドは200種類以上あるといわれていますが、そのペプチドを化学的に合成し、ワクチンとして活用します。
樹状細胞ワクチン療法
- 体外でがん抗原を記憶させた樹状細胞を体内に注入し、リンパ球などの免疫細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃を行い、排除するのが樹状細胞ワクチン療法です。
- 上記のようなメカニズムの違いはありますが、ペプチドワクチン療法も樹状細胞ワクチン療法も、がん細胞の目印(抗原)の認識力を高めることにより、免疫細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃力を強化する治療法という点では共通しています。


がん免疫サイクル
- がん免疫が機能しているということは、「がん-免疫サイクル」というがんに対する免疫反応のサイクルがまわり続けることを意味します。そのメカニズムを、7つのステップから成る一連のサイクルとして示したのが「がん免疫サイクル(Cancer-Immunity Cycle)」です。
-
- ①
- がん抗原の放出
- ②
- 樹状細胞によるがん抗原の提示
- ③
- 樹状細胞によるT細胞への抗原情報伝達と活性化
- ④
- T細胞のがん組織への移動
- ⑤
- T細胞のがん組織への接触
- ⑥
- T細胞によるがん細胞の認識
- ⑦
- がん細胞の攻撃・排除
- がんを発症する患者さまは、この7つのステップにおいて生じる様々な障害により、「がん免疫サイクル」が上手く巡回しない状態に陥っているのです。
- 従って、がん免疫療法においては、この免疫サイクルをスムーズに回し続けることで、免疫反応の活性化を維持し続けることが重要となります。