- 正常な細胞の遺伝子にわずかな傷が付くことにより発生するがん細胞は、加齢とともに多くなり、長い時間をかけて「がん」が形成されていきます。
がん統計*1によると、1年間にがんに新しくかかった人(罹患数)は1985年以降増加しており、2020年には1985年の罹患数の約3倍にも上り、100万人を超えることが予測されています。その一方で、医学のめざましい進歩により、生存率も上昇しています。
*1がん統計:国立がん研究センター がん情報
https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html - しかし、現在の標準治療である外科治療(手術)・化学療法(抗がん剤)・放射線治療を行っても、効果を得られない方が一定数存在されています。こうした状況の中、近年新たな選択肢として、体に本来備わっている体内に侵入してきた細菌・ウイルスを排除する力「免疫」を利用した「がん免疫療法」が世界的に注目されています。
- 当クリニックでは、Precision Medicine(プレシジョンメディシン:次世代オーダーメイド治療)に基づき、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法を中心にサイトカイン療法・免疫チェックポイント阻害療法・分子標的療法などとも組み合わせ、患者さま一人ひとりに合った「がん複合免疫療法」を提供致します。がん免疫療法にご関心のある方は、お気軽に当クリニックまでご相談ください。
がん細胞と免疫
私たちの体では、1日当たり約6,000億個の細胞が生まれ変わっています。
健康な人でも遺伝子の突然変異によって、毎日約5,000個のがん細胞が発生していますが、多くは体に備わっている「免疫」の働きによって排除されています。
がん発生のメカニズムについての詳細は、以下のページを参照ください。
https://shirokane-cancer.jp/mechanism.html

免疫の仕組み
- 免疫には、病原体などの異物の侵入に即座に対応する先天的に備わっている「自然免疫」と、外から入ってきた異物の刺激に応じて後天的に形成される「獲得免疫」があります。
- 免疫は血液中の白血球(好中球・NK細胞/T細胞/B細胞などのリンパ球・好酸球・単球など)が中心となって活動しており、体内に侵入した異物(ウイルス・細菌などの病原体)に対して、それぞれの細胞が役割を分担して攻撃・排除しています。
分類 | 細胞名 | 働き |
---|---|---|
単球 |
樹状細胞
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微生物やがん細胞の死骸などの異物を貪食(どんしょく)する(食べる)ことで情報を取り込み、リンパ球に敵の目印を伝えて(=抗原提示)攻撃させる「総司令官」の役割。がんへの直接攻撃は行わない。木の枝のような突起がみられることから、この名称が付けられている。 |
マクロファージ
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好中球とともに自然免疫の中心的働きをする細胞。好中球よりも強力な貪食能を持ち、大量の細菌や大きなサイズの異物(死んだ細胞など)を自分の中に取り込む。情報を獲得して、リンパ球に抗原を提示する。 | |
顆粒球 (かりゅうきゅう) |
好中球
![]() |
白血球の大部分を占める。遊走能(組織の中を自由に移動できる)、貪食能、殺菌能を持ち、細菌や真菌等に対する最初の防御反応の中心的役割を担う。末梢血中での寿命は約1日。死滅すると膿(うみ)となる。 |
好酸球
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寄生虫駆除に関与する細胞。またアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどI型アレルギーにも関与する。 | |
リンパ球 |
NK細胞 (ナチュラルキラー細胞) ![]() |
好中球・マクロファージ同様、自然免疫の主要因子となるリンパ球のひとつ。抗原提示がなくても単独行動できる利点を生かし、全身のパトロール中にがん細胞などの異物を見つけたら、素早く攻撃を行う。 |
T細胞
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リンパ球の中でも免疫機構の中心的な役割を担う。 T細胞には主に3つの種類がある。 ① キラーT細胞 がん細胞などに直接取りついて攻撃する(細胞傷害性T細胞)。 ② ヘルパーT細胞 樹状細胞・マクロファージから抗原情報を受け取り、サイトカインなどの免疫活性化物質を産生しキラーT細胞やB細胞を活性化させる。 ③ 制御性T細胞 キラーT細胞などが正常な細胞まで過剰に攻撃しないよう活動を抑制させたり、免疫反応を終了させたりする役割を担う。 |
|
B細胞
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抗原を認識するレセプターを持つ。抗原から直接またはヘルパーT細胞によって活性化し、「抗体」という武器を作り戦う細胞(抗体産生細胞)。一度抗原に反応したB細胞は体内に残って記憶細胞となることで、次に同じ抗原が来た際には、速やかに抗体を作ることができる。 |
自然免疫
- 「自然免疫」は、体内に入ってきたウイルスや細菌などの異物を即座に排除しようとする免疫反応のことです。
自然免疫を担当する免疫細胞には好中球・マクロファージなどの食細胞(細菌などを食べてやっつける)やNK細胞(体内パトロールで常に自己細胞のチェックを行い、がんなどの異常細胞があれば単独で攻撃する)、樹状細胞などがあり、自然免疫は先天的な「体の防御システム」の役割を果たしています。 - しかし、免疫回避機能を持ったがん細胞などのように「自然免疫」による排除が難しいことも数多くあります。

獲得免疫
- 「獲得免疫」は自然免疫による排除を逃れて体内で増殖を始めたウイルス・細菌に接触することで、後天的に獲得する免疫反応です。獲得免疫を担当する細胞は主にリンパ球(T細胞・B細胞)であり、「特異性*2」「免疫記憶」の特徴を持ちます。
*2特異性:あるものだけにみられる特殊さ。あるものだけに作用すること。 - 樹状細胞が異物を取り込み「がん細胞」やウイルス・細菌の目印(抗原:こうげん)を認識すると、キラーT細胞とヘルパーT細胞に相手の情報を伝えます。
キラーT細胞は感染した細胞を見つけ出して、直接攻撃します。同じく情報を受け取ったヘルパーT細胞は、B細胞にその抗原に対応した「抗体」を作るよう命じて排除します。またヘルパーT細胞は、キラーT細胞を増やす役割も担います。
獲得免疫では抗原に応じた排除方法を学び・記憶することで、次に同じ抗原に出会った際に、即時に排除することができるようになります。

がん免疫編集説
- 免疫は異物(非自己)を排除することから、1950年代より自分の変異細胞であるがん細胞も排除して生体を守る「がん免疫監視説」が提唱されていました。しかし、免疫の働きがあるにもかかわらず、がん細胞が増殖してがんが発生することから、発がんからがんの進展にかかわる過程については、がんが免疫による攻撃・排除を回避するシステム「がん免疫編集説(cancer immunoediting)」があると考えられ始めています。
- がん免疫編集説では、発がんと免疫の関係は「排除相」「平衡相」「逃避相」と呼ばれる3つの過程に分けられます。
- ①
- 【排除相】最初に体に現れた変異細胞(がん細胞)は免疫原性*3が高いため、異物と認識した免疫細胞から攻撃を受けて排除されます
*3免疫原性:免疫監視システムに認識される性質 - ②
- 【平衡相】免疫原性の低いがん細胞は、攻撃担当の免疫細胞(T細胞・B細胞などのリンパ球)から異物と認識されないため攻撃されず、排除されることなく長期にわたって生存します。
- ③
- 【逃避相】がん細胞は増殖の過程で免疫を抑制する分子を積極的に取り込み、免疫による攻撃・排除から逃れる環境を構築していきます。免疫監視から逃避して無限に増殖・進行することで「臨床的がん」を発症します。
そのため、実際に診察や検査によって見つかる「がん」は、既に「逃避相」の段階と考えられます。

免疫抑制環境を解除させると共に、免疫原性の低いがん細胞に対しても機能する免疫の働きを誘導して、がん細胞を攻撃・排除するために生み出されたのが、がんワクチンを主体とした「がん免疫療法」です。
従来のがんワクチンで使用されていた抗原は、正常な細胞にも僅かながら発現していたため免疫原性は比較的低いものでした。近年では、免疫に抗原をより認識しやすくさせるため、がん細胞のみに発現が高い抗原である「ネオアンチゲン」が使われるようになってきています。
詳しくは、「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法とは?」をご参照ください。
がん免疫サイクル
がんを発症する患者さまは、様々な障害によって「がん免疫サイクル」が上手く働いていない状態に陥っています。
<がん免疫サイクル>
- ①
- がん抗原の放出
- ②
- 樹状細胞によるがん抗原の提示
- ③
- 樹状細胞によるT細胞への抗原情報伝達と活性化
- ④
- T細胞のがん組織への移動
- ⑤
- T細胞のがん組織への接触
- ⑥
- T細胞によるがん細胞の認識
- ⑦
- がん細胞の攻撃・排除

免疫反応の活性化を維持し続けて「がん免疫サイクル」を円滑に巡回させることが、がん細胞の排除では重要なカギとなります。
「がん免疫療法」の特徴
近年、免疫反応の活性化を図ってがんを攻撃・排除する治療「がん免疫療法」が注目を集めています。
がん免疫療法とは?
がん免疫療法とは、免疫の力を利用してがんを攻撃・排除する治療法です。
- メリット
- 自身の免疫力を利用するので比較的副作用が少ない
標準治療(手術・抗がん剤・放射線)が効かないケースにも効果が期待できる - デメリット
- 免疫に働きかけるため、効果が現れるのに多少時間を要する
健康保険適用外の自由(自費)診療となる場合が多い
(治療法・がんの種類によっては保険適用あり)
がん免疫療法の変遷
1990年代前半までに開発されたがん免疫療法(免疫賦活剤・サイトカイン療法・活性化リンパ球療法・NK細胞療法など)は「非特異的免疫療法」として、体全体の免疫を高める治療法でした。
1990年代後半になると、ペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンなどのがんワクチンが登場し始め、がん細胞だけを狙う「特異的免疫療法」の時代へと進化しました。現在では、ゲノム解析などの技術の進歩に伴い「患者さま個人のがん細胞」をターゲットにしたネオアンチゲンの活用による「個別化されたがんワクチン治療」が行われるようになっています。
がん免疫療法の種類
がん免疫療法には、いくつか種類があります。
また、がん細胞への攻撃の仕方には2パターンあり、自動車に例えるなら、「ブレーキがかかるのを防ぐ役割」と「攻撃する力を強めるアクセルの役割」に分けられます。
ブレーキがかかるのを防ぐ役割
-免疫チェックポイント阻害療法
薬剤の開発に貢献した本庶佑(ほんじょ たすく)氏が2018年ノーベル医学生理学賞を受賞したことで話題となりました。免疫にブレーキをかける「PD-1」を抑えてリンパ球の攻撃力を回復させる薬剤で、一部のがんについては健康保険の適応がなされています。対象となるがんは、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫などです。

(画像引用)免疫チェックポイント阻害薬※2020年8月現在|国立がん研究センターがん情報
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
-サイトカイン療法
サイトカインは細胞間の情報伝達作用を持つタンパク質で、特異的な受容体と結合すると免疫反応の増強、制御、細胞増殖、分化の調節などを行っています。様々な種類がありますが、中でもNK細胞・T細胞を増殖・活性化する「インターロイキン2(IL-2)」が転移性腎臓がんで保険適用となっています。マクロファージ・NK細胞を活性化させ抗腫瘍効果のある「インターフェロン(IFN)」は腎細胞がん、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、悪性脳腫瘍、皮膚T細胞性リンパ腫で保険適用となっています。また、IL-6などの炎症性サイトカインは抗腫瘍免疫を抑制することがわかっており、これらを排除する方法も開発されています。
参考資料
当クリニック医師の臨床研究・臨床試験に関するPDFファイルが閲覧できます。
攻撃する力を強めるアクセルの役目
-エフェクターT細胞療法
現在、国内で保険承認されているエフェクターT細胞療法は、「CAR-T(カーティー)療法」と呼ばれる、患者さまが持っているT細胞を取り出し、がん細胞の目印を見分ける遺伝子(CAR:キメラ抗原受容体遺伝子)を組み入れて増やしてから、再び体の中に戻す方法です。CAR-T(カーティー)療法は一部の血液系のがんに対して行われます。ただし、意識障害や様々な臓器で障害が起こるサイトカイン放出症候群が起こりやすいため、原則入院加療による治療となります。また、固形がんに対しては、残念ながらその効果は限定的なものになります。
-がんワクチン療法
がん細胞の目印(抗原)の認識力を高めることにより、免疫細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃力を高める治療法です。原則的に自由(自費)診療となります。

(画像引用)ペプチド|日本がん免疫学会
https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-07/
① ペプチドワクチン療法
- がん細胞に多く発現する目印(抗原)である、タンパク質の断片「ペプチド」を利用します。なお、攻撃の目印となるペプチドは200種類以上あり、化学的に合成してワクチンとして活用します。ペプチドワクチン療法では、ペプチドを免疫賦活剤と共に直接体内に投与します。投与したペプチドが樹状細胞などに取り込まれ「がん抗原」として認識されると、リンパ球などの免疫細胞が活性化し、同じペプチドを発現しているがん細胞への攻撃を行い、排除します。
- なお、近年では「がん細胞」に発現が高いペプチドを利用したがん免疫療法「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法」が一部の医療機関で行われるようになっています。非自己のネオアンチゲンペプチドを使用することで、より免疫に認識されやすくなり、がん細胞が攻撃されやすくなります。
- 当クリニックではこの「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法」を中心とした、がん免疫療法をご提供しております。詳しくは、「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法とは?」をご参照ください。

(画像引用)ペプチドワクチン療法|日本がん免疫学会
https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-07/
② 樹状細胞ワクチン療法
患者さまの血液から樹状細胞の元を取り出します。体外で樹状細胞に分化させ、がんの目印(ペプチド)を加えて「がん抗原を持った樹状細胞ワクチン」を作ります。ワクチンを投与すると樹状細胞が体内で新たにリンパ球を活性化させるため、がん細胞を攻撃することが可能となります。

(画像引用)樹状細胞ワクチン療法|日本がん免疫学会
https://jaci.jp/patient/immune-cell/immune-cell-07/
がん免疫療法の副作用
がん免疫療法では、一般的な化学療法(抗がん剤)で起こりやすい「吐き気」「脱毛」などの副作用は少ないと報告されています。しかし、健康保険の適応が承認されている「免疫チェックポイント阻害剤」であっても、様々な副作用が起こる可能性はあります。副作用の発生および副作用の程度には個人差があり、治療直後のみならず、治療後数週間~数ヶ月後に起こることもあります。
そのため、治療を行う前にあらかじめ想定できる副作用について医師に確認しておくことが必要です。
また、治療中は日頃からご自身の体調の変化に気を配り、いつもと何か違う感じがするときには、速やかに医師・薬剤師または看護師に相談することをお勧めします。
3大標準治療とがん免疫療法の違い
現在、がん治療には「標準治療」と呼ばれる、次の3つの治療法があります。
標準治療に共通するメリットは、健康保険が適用されることです。
外科治療(手術)
外科治療(手術)では、がん組織やがん組織のある臓器を切除します。特にがん細胞は周囲の組織に広がったり(浸潤)、血管・リンパ管などから他の臓器に広がったり(転移)することがあるため、通常はがんができた臓器をやや大きめに切除します。
手術の方法は、がんの種類や大きさ、病態の進み具合によって選択します。目で患部を直接確認しながら行う手術のほか、腹腔鏡・胸腔鏡などの器具を使って行う場合もあります。近年はロボット支援下手術なども一部の医療機関で行われるようになっており、より低侵襲(身体への負担が少ない)な手術が可能となっています。
なお、切除手術によって、正常機能が失われる場合には、機能を回復させるために臓器のつなぎ合わせなど再建手術も行うことがあります。
- メリット
- がんの根治が期待できる
- デメリット
- 体に負担がかかる(体力・持病などの要因で実施できないことがある)
取り切れなかった小さながんが再発・転移する可能性がある
化学療法(抗がん剤)
化学療法(抗がん剤)は「殺細胞性抗がん薬」を使用した薬物療法のひとつです。なお、薬物療法には、ホルモンの働きを阻害して、ホルモンを利用して増殖するタイプのがん細胞を攻撃する「内分泌療法(ホルモン療法)」、分子標的療法、免疫療法でもある免疫チェックポイント阻害療法も含まれます。
化学療法は、細胞増殖の過程でがん細胞を攻撃したり、がん細胞の増殖や転移を抑えたりする治療です。効果は早く現れやすいですが、正常な細胞も攻撃してしまうので、副作用が現れやすいことが分かっています。がんの種類や進行度、治療歴など、患者さまによって使用する薬剤は異なります。化学療法だけではなく、外科治療(手術)・放射線療法などと組み合わせて行うことがあります。
- メリット
- 全身に作用する
手術ができない場合にでも投与できる
一部の血液系がんでは完治が期待できる - デメリット
- 継続使用すると、がんに「耐性」ができる
正常な細胞にも影響を与えるので副作用が出やすい
放射線療法
放射線療法は患部に放射線を照射して、主に細胞のDNAに損傷を与えることでがん細胞の増殖を抑える治療法です。症状を緩和するために行う場合もあります。自然界にも放射線は存在していますが、治療では電子線、陽子線、重粒子線、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線などを人工的に作り出して活用します。がんに対する放射線治療の歴史は古く、約100年前から行われており、現在はがん細胞には多くの放射線量を照射し、周囲の正常組織にはできる限り少量の照射で済むような方法が開発されています。
体外から照射する方法が一般的ですが、放射性物質を体内に挿入したり飲み薬や注射で投与したりする内部照射の方法もあります。
- メリット
- 治療による組織や機能の喪失を可能な限り抑えることができる
負担の大きい手術が行えない高齢の患者さまでも治療が可能
通院による治療が可能 - デメリット
- 放射線被ばくによる副作用(倦怠感・食欲不振・皮膚の炎症・骨髄機能抑制など)が起こりやすい
通院回数が多い過去に放射線療法を受けた箇所やその近辺にできた「がん」には照射できない
3大標準治療とがん免疫療法との関係
- 現在の3大標準治療は、多くの臨床研究の中から科学的根拠(エビデンス)に基づき、選定されていますが、残念ながら治療の効果を十分に享受できない方も一部存在されます。特に進行がんにおいては、標準治療では治癒出来ないケースが多々みられます。
- そうした方々に対しても、本来人間の体に備わっている免疫力を活用する「がん免疫療法」は、標準治療とバランスよく組み合わせることによって相乗効果を生みだし、より効果的な治療となることが期待できます。

ネオアンチゲンペプチドワクチン療法とは?
当クリニックでは従来のペプチドワクチン療法よりもがん細胞を的確に攻撃・排除する「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法」を採用しています。
ネオアンチゲンペプチドワクチンは、患者さまのがん細胞に特化した「がんワクチン」です。
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法の特徴
- ①
- 「がん細胞」のみに発現する抗原を用い、免疫原性が非常に高い
ペプチドワクチン療法で用いる「腫瘍関連抗原」はがん細胞に多く見られる抗原ですが、正常な細胞でもわずかに発現する抗原です。
一方、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法では、「新生抗原」「腫瘍特異的変異抗原」とも呼ばれる、正常細胞には発現せずがん細胞だけに発現する抗原「ネオアンチゲン(Neoantigen)」を使用します。 - ②
- ネオアンチゲンは、人によって異なる性質を持っている
次世代シーケンサー(NGS)を使用し、がん細胞や遺伝子解析を行うことにより、患者さま一人ひとり異なる「がん抗原」を利用することが可能となります。 - ③
- 重篤な副作用がほとんどみられない
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法はご自身の免疫機能を活性化させる治療であるため、重篤な副作用はほとんどみられません。ただし、注射による治療となるため、予防接種のように一時的な注射部位の赤み・腫れ・かゆみ・微熱・倦怠感などがみられることもあります。治療の必要がある場合には当クリニックにて対応します。なお、入院加療が必要となるケースでは、当クリニックの連携医療機関にて対応させていただきます。
参考資料
当クリニック医師の臨床研究・臨床試験に関するPDFファイルが閲覧できます。
- Ota Yasunori ,Hijikata Yasuki et al, Molecular Ther. Oncolytic .2019 (英文)
- Hijikaya Yasuki et al, Clinical Immunology. 2016 (英文)
- Hijikata Yasuki et al, PLoS one. 2018 (英文)
- 既治療不応進行胆道癌患者を対象としたカクテルペプチド癌ワクチンOCV-C01療法 第Ⅱ相医師主導治験*4
*4治験=臨床試験
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法と樹状細胞ワクチン療法との違い
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法と樹状細胞ワクチン療法は、どちらもがん細胞の目印(抗原)の認識力を高めて、免疫細胞の活性化・がん細胞への攻撃強化を行う治療法です。
しかし、次のような点に違いがあります。
- ①
-
ワクチンの原材料
- ネオアンチゲンペプチドワクチン
化学的にペプチドを合成→品質が安定 - 樹状細胞ワクチン
患者さまの免疫細胞を使用→細胞は生きているため、品質が安定せず治療効果が得難い場合もある
- ネオアンチゲンペプチドワクチン
- ②
-
ワクチン製造過程(時間・費用など)
- ネオアンチゲンペプチドワクチン
合成したペプチドワクチン使用するため、コストダウンが図れる→他の治療法と組み合わせて治療する機会が広がる(治療効果の最大化) - 樹状細胞ワクチン
再生医療等安全性確保法に基づき、体外で細胞培養の実施→培養に時間を要する・高度な技術が必要→高額になることで、他の治療と組み合わせる機会を喪失する可能性がある
- ネオアンチゲンペプチドワクチン
- どちらにも一長一短がありますが、現在のがんワクチンの世界標準は「ペプチドワクチン」であり、当クリニックでは標準治療や免疫チェックポイント阻害療法など他の療法と組み合わせ、治療効果の最大化を図るために、「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法」を採用しております。
- 3大学術誌のひとつ「Cell」にも、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法と免疫チェックポイント阻害療法との併用治療について掲載されています。
(参考資料)A Phase Ib Trial of Personalized Neoantigen Therapy Plus Anti-PD-1 in Patients with Advanced Melanoma, Non-small Cell Lung Cancer, or Bladder Cancer|「Cell」Volume 183, Issue 2, 15 October 2020, Pages 347-362.e24
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092867420311417
当クリニックのがん免疫療法メニュー
次世代オーダーメイド治療(Precision Medicine:プレシジョンメディシン)
がん細胞に対する免疫療法には、大きく分けて3つのタイプがあります。
- がんに対して免疫による攻撃力を高める方法
- がんによってブレーキがかかった免疫(リンパ球)の攻撃力を回復させる方法
- がんによって生じた免疫抑制状態を解除させる方法

- 当クリニックでは、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法を中心に「サイトカイン療法」「免疫チェックポイント阻害療法」などを組み合わせた「がん複合免疫療法」を行っています。
- また、当クリニックの医師は遺伝子研究の世界的権威であり、がん免疫療法の第一人者である中村祐輔氏*5のメソッドを取り入れながら、大学病院等の臨床現場で培った豊富な知見を基に患者さま一人ひとりに適した免疫療法をご提供しております。
*5中村祐輔氏:がんプレシジョン医療研究センター所長。「オーダーメイド医療」を信条にゲノム研究を行う。世界のトップクラスの研究者の功績を称える「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」の2020年受賞者。
次世代シーケンサー(NGS)によるゲノム解析やスーパーコンピューターの積極的活用
当クリニックでは、株式会社 Cancer Precision Medicine(CPM)*6にゲノム解析を依頼し、次世代シーケンサー(NGS:超高速に数千万~数億のDNA配列を解読するシステム)を用いたがん組織や血液の遺伝子解析を行っています。
次世代シーケンサーによる解析では、患者さまのがん細胞に発現しているネオアンチゲン候補を200程度に絞り、さらにスーパーコンピューターを活用して樹状細胞に取り込まれやすい上位5~10個のネオアンチゲンペプチドを選定して、治療に活用します。
*6株式会社 Cancer Precision Medicine:がん組織の遺伝子変異解析等の受託解析を行う企業。中村氏が所長を務める「がんプレシジョン医療研究センター」と共同研究契約を締結。
https://www.jfcr.or.jp/genome/news/5451.html

当クリニックの目的別「がん免疫療法」メニューとスケジュール例
当クリニックでは、目的別に3つのメニューを設けて、がん免疫療法をご提供しています。実際の治療に使う薬剤およびスケジュールなどは、患者さまによって異なります。
再発予防メニュー
当クリニックでは、手術後の再発予防治療として、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法を主体とした「がん免疫療法」を推奨しております。化学療法(抗がん剤)や放射線療法等と「がん免疫療法」を組み合わせることも可能です。患者さま一人ひとりに適した再発予防治療をご提供致します。
<再発予防メニュー例①>
下記スケジュールは一例です。病期・進行度によりスケジュールは変動します。
- ①
- 手術後1~2か月後からネオアンチゲンペプチドワクチン接種を開始
- ②
- 当初は2週間おきにネオアンチゲンペプチドワクチン接種
- ③
- その後、1か月おきにネオアンチゲンペプチドワクチン接種
- ④
- 状況により、2週間~1か月ごとにサイトカイン投与

<再発予防メニュー例②>
下記スケジュールは一例です。病期・進行度によりスケジュールは変動します。
- ①
- 手術後1~2か月後よりネオアンチゲンペプチドワクチン接種を開始
- ②
- 当初は2週間おきにネオアンチゲンペプチドワクチン接種
- ③
- 1か月おきにネオアンチゲンペプチドワクチン接種
- ④
- 状況により、ネオアンチゲンペプチドワクチン接種の合間および終了後、2週間~1か月ごとにサイトカイン投与

進行がんの標準治療補完メニュー
- 進行がんは外科療法(手術)・化学療法(抗がん剤)・放射線療法などの標準治療だけでは根治が難しい側面もあります。一方、患者さまが本来持っている免疫力を活かした「がん免疫療法」は標準治療と適切に組み合わせることで相乗効果を生み出し、より効果的な治療が期待できます。
- また、「がん複合免疫療法」はがんワクチンを投与するタイミングやその分量の調整が治療効果に大きな影響を及ぼします。当クリニックの医師は20年以上前から大学病院などで「がん複合免疫療法」の臨床試験や研究に取り組んで日々研鑽を積んでおります。
<進行がんの標準治療補完メニュー例>
下記スケジュールは一例です。病期・進行度によりスケジュールは変動します。
- ①
- 2週間ごとの化学療法(抗がん剤)
- ②
- 抗がん剤の休薬期間に2週間ごとのネオアンチゲンペプチドワクチン接種
- ③
- 状況によってネオアンチゲンペプチドワクチン接種後にサイトカイン投与

化学療法(抗がん剤)不応となった進行がん治療メニュー
- 化学療法を行ってもがん細胞が増大して薬が効かない状態(不応)となる場合があります。不応となる主な要因には、がん幹細胞(がん細胞を自己複製している細胞)の抗がん剤に対する抵抗性(耐性)などがあります。
- 当クリニックの「がん複合免疫療法」は、化学療法不応となった進行がんに対して、次世代シーケンサーを使った遺伝子解析結果に基づき「ネオアンチゲンペプチドワクチン療法」を中心に「抗体療法」「サイトカイン療法」「分子標的療法」「少量抗がん剤療法」などを適切に組み合わせて、がん細胞が構築した免疫抑制環境の解除を図ります。さらに、免疫の働きや分子標的薬などにより薬剤耐性を有するがん細胞を排除して、患者さまが最大限の治療効果を得られることを目指します。
<化学療法(抗がん剤)不応となった進行がん治療例>
下記スケジュールは一例です。病期・進行度によりスケジュールは変動します。
- ①
- がん細胞周囲の免疫抑制環境を解除するために、分子標的薬・抗体薬・抗炎症性サイトカインなどの免疫抑制解除薬を投与
- ②
- ネオアンチゲンペプチドワクチンを2回接種する。次回のネオアンチゲンペプチドワクチン接種以降、サイトカイン投与を追加
- ③
- ネオアンチゲンペプチドワクチン接種の合間(2回おき)に免疫チェックポイント阻害剤を投与
ただし、経過中に免疫抑制環境が解除されていない場合には、免疫抑制解除薬の追加投与を行うこともあります。

当クリニックでのがん免疫療法の流れと費用
当クリニックのネオアンチゲンペプチドワクチン療法を主体とした、がん免疫療法の大まかな流れは次の通りです。
- ①
- 手術あるいは生体検査で組織や標本を採取する
- ②
- 遺伝子解析の結果を踏まえ、ネオアンチゲンの選定を行う
- ③
- ネオアンチゲンペプチドの合成
- ④
- 免疫賦活剤の混合
- ⑤
- ネオアンチゲンペプチドワクチンの皮下接種
オプションとして、少量抗がん剤治療/抗体療法、分子標的薬/サイトカイン療法、免疫チェックポイント阻害療法を組み合わせます。

- また、当クリニックでネオアンチゲンペプチドワクチン療法を行う場合の費用一例は、以下の通りです。
- 実際にかかる費用は患者さまの病態・治療内容によって異なります。
- また、下記の概算費用にはオプション治療などは含んでいません。詳細は当クリニックまでご確認ください。
- ネオアンチゲンペプチドワクチン療法
約190~290万円 - ネオアンチゲンペプチドワクチン療法+免疫チェックポイント阻害療法
約240~340万円 - サイトカイン療法(免疫賦活剤)
約10万円 - がん遺伝子解析による薬剤の選定(遺伝子解析+適合する薬剤候補の選定)
約30万円*7
*7当クリニックでがん免疫療法を行う場合。行わない場合には約50万円。
よくあるご質問
がんによって免疫機能が低下している場合でもネオアンチゲンペプチドワクチンを投与することで、免疫細胞が活性化し正常に免疫細胞が機能するようになりますか?
- 免疫の活性化を促進することは可能です。ただし、免疫が正常に機能するか否かは、患者さまのがんの進行度・体の状態など他の様々な要素が関係するため、100%機能するとは断言できません。
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法が受けられない「がん」はありますか?
- 基本的にはありません。
- ただし、急性白血病などの一部の造血器腫瘍では病気の進行が早く、がん免疫療法の効果が発揮される前に病状が進行してしまう恐れがあります。
抗がん剤や放射線療法を受けたくない場合、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法だけでがんを治療することはできますか?
- 当クリニックでは、標準治療の可能性が残されている進行がんに対して、ネオアンチゲンペプチドワクチン療法による単独治療は推奨しておりません。抗がん剤や放射線治療等の標準治療とがん免疫療法を適切に組み合わせることによって、治療効果の最大化が期待できるからです。
ネオアンチゲンペプチドワクチン療法はどのくらい続けるとよいのでしょうか?
- 接種回数は治療結果により変動します。また、治療効果は患者さまによって異なるからこそ、患者さまの状態に合わせた個別化治療(オーダーメイド治療)が重要となります。

作成したワクチンの自己注射や自宅近隣病院での接種は可能ですか?
- 合成したペプチドは、当クリニック独自の技術を用いて接種前に他の薬剤と調合してワクチンを作成しております。
そのため、当クリニックや当クリニック連携医療機関以外では接種いただけません。
ただし、当クリニック医師の往診によって、患者さまのご自宅などで接種することは可能です。
海外で行われたネオアンチゲンペプチドワクチン療法で、重篤な急性アレルギー反応が起こったという論文*8があるようですが、大丈夫でしょうか?
- *8参考)https://clincancerres.aacrjournals.org/content/26/17/4511
- 免疫療法を提供するクリニックの中にはがん治療を専門とした病院あるいは大学病院・研究施設などで適切なトレーニングを受けた医療者が少ない場合があり、残念ながら患者さまにとって「適切な治療」とは言い難いケースも存在しています。重篤な副作用などは、そういった知見の少ない医療者が治療を施した際に生じやすいと考えております。
- 当クリニックでは大学病院等で研鑽を積み、豊富な知見を有している医師によりネオアンチゲンペプチドワクチン治療を含む「がん免疫療法」をご提供しています。
医師から一言
がんは遺伝子の変異が原因で発症する病気であるため、同じがん種であっても個々の遺伝学的背景が全く異なり、治療薬の感受性・効果も患者さま一人ひとりにより全く異なります。がんは免疫で排除されることも証明されていますが、患者さま一人ひとりにより免疫環境が大きく異なることから、「がん免疫療法」も患者さまの個別性を考慮し、治療方針を立てることが重要となります。患者さまのお話をじっくり伺いながら、一人ひとりに適した治療法をご提案致しますので、お一人で悩むことなく、まずはお気軽にご相談ください。